今から約2500年前の紀元前500年頃の中国春秋戦国時代に活躍したとされる軍事思想家「孫武」の記録とされる軍事戦略書として、今なお世界で人気のある「孫子の兵法」13篇の第3篇・謀攻篇の公判最後に有名なくだり、
「故に曰く、彼を知り、己を知らば百戦殆うからず。
彼を知らずして、己を知らば、一勝一負す。
彼を知らずして、己を知らざれば、戦う毎に殆うし。」という一文があります。
すなわち、戦いに勝つためには、まず相手のことをよく知らなければならない。相手の研究を十分に行い、相手の得意、不得意について十分承知すれば、どんな戦いにも勝つことができる、と解することができます。生死をかけた中国戦国時代の戦いとは異なる現代のビジネス社会では、情報戦、IT技術などを駆使した激しい経済社会での企業間競争が繰り広げられています。
まさに、M&Aの売り手と買い手において、交渉のプロセスは、彼と己の関係にたとえることができます。
すなわち、M&Aの交渉は、当初から交渉戦略の連続でお互いに仲良くするというのは、ポストM&AであるM&Aが終了してからのノーサイドゲームになってから以降お互いに協力しあいながら、成長発展していく段階での話であって、M&Aが成立するまでは、丁々発止のやり取りが繰り広げられます。
その意味で、彼を知るすなわち交渉相手を理解することは、大切ですが、まず、負けないために、どんな相手が登場してきても、自社である己を知ることから始めなければなりません。
では、己の何を知る必要があるかと言いますと、経営計画や経営戦略策定の時によく言われているSWOT分析があります。
その中でも特に、己の弱みを十分把握しておくことが大切でしょう。人は皆傾向として、自分の強みを過大評価して、自分の弱みを過小評価すると言われます。
まず、己の弱みを正しく知ること、つまり、現時点にて会社を辞める廃業するもしくは閉鎖するとすれば、どれだけのコスト損失が発生するか、いくらの財産が残るのかを試算しておく必要があります。もし、財産がほとんど残らないで、廃業するためのコストが、現在の財産を上回ってしまうようなら、最悪買い手が見つからないで、廃業するなら多大な損害を被るからです。
そのことを理解したうえで、自社の強みを活かすならば、買い手から見て、魅力ある企業であること、買い手のマーケットにおける地位を現在よりはるかに強く有利に押し上げることをアピールすることになるでしょう。交渉の合意あるいは決裂のどちらになろうともM&Aのプロセスは、きわめてタフな交渉力が必要で、その出発は自社の強みをより、弱みを十分に認識することになるでしょう。
このことは、決して交渉に弱気になることとは、別物であります。
当協会の関連資格
理事 黒崎宏
日本公認会計士協会、日本税理士連合会、公認不正検査士協会、事情再生支援協会
(経営管理士)
今回より、理事に就任させていただきました黒崎宏と申します。専門分野は経営管理会計システム、事業再生、M&A支援、事業承継支援を弁護士、税理士司法書士、専門コンサルタントとチームを組んで約20年間従事させていただいております。最近10年間は特在日中国企業の経営者達に日本的経営の真髄を普及する活動に力を入れております。今後ともよろしくご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。